16.
第三話 麻雀大会をしよう!
「さて、今日は全員集合するわけだけど1年生が遅いわね」
「なんか買い物してから行くって言って駅前で2人はいなくなりました」とアンが報告する。
ガチャ
「お邪魔しまーす!」
(佐藤家は基本的に鍵を閉めていない)
ヤチヨとヒロコが遅れてやってきた。何やらガサガサと袋の音がする。
「何買ってきたの?」
「カップ麺を人数分とお菓子を少々と飲み物を大量に買いました」
「え、気が利くけど…… なんで?」
「なんでって今日は金曜日ですし多少遅くなっても明日は休み、8人いるならトーナメント戦で麻雀大会をやりたいなって」
「やりますよね?」
そんな話は聞いてない、だが答えは全員聞くまでもなかった。
「やるに決まってるわ!」
マンズを引いたらAグループでピンズを引いたらBグループということにして8人はまずトーナメントのグループ分けをした。
ユウ「③筒」
ミサト「二萬」
ヤチヨ「①筒」
マナミ「②筒」
アン「三萬」
スグル「一萬」
ヒロコ「④筒」
てことは、私は四萬か……とカオリも最後の1枚を一応盲牌すると。
カオリ「伍萬……?」
めくってみたら四萬じゃなかった。
「5入ってんの? 4までじゃなく?」
準備したのはユウだった。
「いいじゃない、マンズかピンズなら。ちょっとパッと見で四萬が見つかんなかったのよ」
問題ないが少し驚いたし、嬉しかった。実を言うとカオリが一番好きな牌はこの『伍萬』なのである。他のマンズはただの漢数字なのに何故だか5だけは人偏がついているということ。そしてその文字の意味は『対等』や『仲間』という意味があると言う事をカオリは知っていた。
「ううん、いいよ。私、伍萬好きだし」
まずは一回戦
Aグループ
ヤチヨ
マナミ
ユウ
ヒロコ
この4人の戦いだ。
場決め用にまずは東南西北を伏せてかき混ぜて掴み取りをする。ちなみにだが、この方位の順番は季節風の流れを表しているという説がある。春は東風。夏は南風。秋は西風。冬は北風だ。それを知ってると風牌がドラの時も分かりやすい。
ヤチヨ「西! やった!」
西家スタートあたりは得することが多い。南3局という重要な局面で親になることで一気に勝負を決めることが出来るし南2局までどんなにへこんでいても焦らずにいられるからだ。
ヒロコ「北。ラス親かあ」
北家スタートだとオーラスに親をやる事になるので親のうまみが少し少なくなる。最終局面だから親がどうであれ攻めるしかないと腹を括られる事があるからだ。特にこの麻雀部の面子だと腹を括って勝負に行ける肝の座った打ち手しかいなかったのでオーラスの親は少し嫌だった。ただ、オーラスまで逆転のドラマがあるという面白さはあるから嫌な事ばかりでもない。
ユウ「南。ホッ…… チーチャ苦手だから良かった〜」
マナミ「てことは私が起ち親ね! 東1局で終わらせてあげるわ!」
アガリの上手いマナミにはチーチャスタートは絶好のポジションであったし、ユウの麻雀は展開読みを得意とするので動きの一切ない東1局から親をやりたくはない。2人とも自分の引きたいポジションを引いているのは偶然とは言えさすがであった。
牌を混ぜる
ジャラジャラ――
自山を作り
――カシャン!
「「おねがいします!!」」
誰に習ったわけでもない。試合開始の挨拶は子供であれ自然と行う。それはしかし相手に向けているわけでなく牌に。麻雀に言っているのだった。その競技に対する礼儀。勝利への祈り。そして感謝。その心があると必ず挨拶してしまうのが雀士という生き物であった。
サイコロを振って開局。チーチャのマナミが自山の内壁に当てるように2個の小さなサイをヒュ! と投げる。
2と6の8
左8
マナミが左8からの取り出しをスッとノータイムで行って、東1局が始まった。
その取り出しの早さ。それだけで1年生達は少しビックリしていた。なぜなら左8という取り出しは素人なら数を数えて取るような、わかりにくい場所なのだ。それをノータイムで取るなど1年生には無理なことである。経験値の差がこれだけでわかるアクションだ。
まずはマナミが一歩リード。そんな立ち上がりだった。
17.第四話 損得勘定 東1局はマナミが手なり※で5巡目に先制リーチをかけた。「えー! はやいー!」 全員からのブーイングだ。別に5巡目リーチは言うほど早くはないが。 数巡後……「ツモー!」マナミ手牌四伍六六七八②②②③④⑥⑦ ⑤ツモ マナミがメンタンピンツモの2600オールを仕上げる。7800点の収入。全員と10400点差のつくアガリだ。充分な打点であると言っていいだろう。 麻雀にはこの『点差』というものへの意識が重要で、例えば親番に8000を放銃したとしてもそれにより開く点差は16000であるため放銃回避をしたばかりに3000.6000をツモられて18000点差開くよりはマシだ。親番に3900の放銃をして7800点差つこうとも1300.2600をツモられてしまえば結局は7800点差開くので同じことだから気にすることはない。 この点差への意識を高めていく事で『押し得』か『降り得』かを見極めていく。麻雀とはそういう損得勘定をするゲームなのである。 さて、親のマナミが和了ったので東1局一本場だ。 スッ。とマナミが100点棒を右に置く。これは積み棒と言って一連荘目という目印だ。マナミのその積み棒を置く動作の似合うこと。堂々たる所作。(強い…… これが3年生!)ヤチヨとヒロコは既に圧倒されていた。しかし、ユウの心だけは少しも揺れていなかった。まだ、東1局。なんとでもなる。そう、考えていた。 メンタンピンをツモっただけ。それだけだったが気持ちの上ではマナミとユウの一騎討ちになりつつあった。 東1局一本場のサイが振られる。1ゾロの2 「ヤチヨちゃんドラ開けて」「あ、ああすいません……!」 これは2が出るとよくある事で、サイの目が2だと取り出しは右からになるのだがドラ表示牌は対面になるため対面がドラ表示牌をめくるのを忘れる事がある。 この時ヤチヨは完全にマナミの気合いに圧倒されていたので余計に忘れてしまった。(ヤチヨちゃんじゃ勝てそうもないな。ここは私がなんとかしなきゃ) そう感じて、展開読みのエキスパートである賢者ユウが動き出した。東1局一本場7巡目ドラ中「チー」 佐藤ユウのリャンメンチー。②③と持っている所の④を上家であるマナミからチーした。しかもその前巡にはマナミは①も捨てており、それには食いついてないという情
18.第伍話 ヒロコの選択 やはりマナミとユウの力の前ではテンパイ速度が違いすぎていてヤチヨは頑張ってはいたがアガれない。 苦戦する1年生達にそれでも全く容赦しない、というより油断しないのがマナミでありユウであり、つまりは勝負師であった。 本気で倒しに行く。それでも勝負は時の運なのだから。油断なんてしていいわけがない。 何度かヤチヨはテンパイしたが和了はないまま最終局をむかえた。ヒロコに至ってはまだテンパイすらしていない。 だが、ヒロコは楽しんでいた。先輩達の和了の美しさ、強さに惹かれて自分が負けてるということを辛く思うより、単純に憧れた。こんな風に麻雀をしたい。そう思ってもはや見惚れていた。 そんなヒロコは持ち点5000点しかなく。トップのマナミと36100点差。2着のユウとも31000点差もついていた。点棒状況マナミ 41100点ユウ 36000点ヤチヨ 17900点ヒロコ 5000点 もう逆転とかはほぼないなと思いつつも最後まで楽しんだオーラス親のヒロコの配牌がこれだった。ヒロコ手牌二二三三伍伍八⑥⑦⑦7788ドラは中 ドラこそないが配牌でタンヤオチートイツのテンパイをしてる!「ちょ! ちょっと! 見て見て見て見て!! すごくないですかこれ!!」と周りで見ていたカオリやスグルを呼ぶ。まるでもう和了ったかのような大騒ぎだ。(おおおおおお!!)とギャラリーもざわめく。「りーちいぃいいぃ!」打八ギャラリーは無言で顔を見合わせた。(そっち切るんかい!)と 麻雀は1や9は端牌と言って使いにくい牌なため捨てられやすく和了を拾いやすい。その次に出やすい牌が2や8だ。 そして、6などはそう簡単には出てこない牌。つまり、ここは⑥切りで八単騎に受けるのが普通なのだが。 ヤチヨは打八として一発を回避した。後ろからヤチヨの手を見るとかなり整った配牌をもらっていて八は現物になってなくても捨てたかもしれなかった。 そしてこれは2着までが勝ち上がりのトーナメント戦なためヤチヨが放銃するのは4から3に上がるだけで意味がない。(そうか! ヤチヨちゃんから出ても意味ないどころか裏乗ったらトビで終わるから困るんだ! なら出にくい牌で待っている方がいいのかも!)(これは⑥に受けたのが功を奏するのでは?)とギャラリーたちはざわついた。 中々
19.第六話 本物の一流雀士「さてと、Bグループをやる前にちょっと休憩しながらさっきの半荘を振り返ろうか」とスグルがお湯を用意する。「私、焼きそばがいい!」「私はトマト味ね!」「じゃあ私はしょうゆラーメン」「私はまだいいからココアちょうだい」など、各々好きなものを手に取り休憩に入った。 バリッ!「ポテチの基本はやっぱりうす塩ね」「私はのり塩が好きなんですけど先輩たちが歯にのり付くの気にすると思って」とヤチヨが言った。たしかにのり塩は食後の歯のりチェックが必須だから面倒ではある。「そんなの気にしないで自分の好きなの買えば良かったのに」「だからふたつ買ってきたんです」袋をよく見たらのり塩もあった。 部員たちはあれこれ食べながらいつもの研究モードに入り始める。オーラス⑥筒単騎にしたのは凄かったね。という話題になった。「あの点棒状況とトーナメント戦という条件。トビ終了採用ということ。全てを加味すると確かに八萬単騎より出されにくい⑥筒単騎の方がむしろいいということはあり得る」「押してくれるのは三着目のヤチヨだけだしね」「あの時、ヤチヨにもドラの中が2枚来ててソーズのメンホンで倍満目指してたんだよ」「じゃあ八萬単騎にしちゃってたら……」「間違いなく放銃ね」「となると、さすがに単騎リーチをかけて見逃しはちょっと出来ないから、裏乗らないで! と言って倒してたね。裏裏で飛ばして三着でおしまいになっちゃうとこだったわ」 細かい手順はまだ荒い1年生達ではあったが戦略性はしっかりとしていてヤチヨもヒロコも優秀だった。さすがはテーブルゲーム研究部に所属するだけのことはある。「あ~ん、私がまさか一回戦で負けるなんて~! 悔しいー!」ベッドに転がり枕をバンバンと叩いて悔しがるユウ。「おい、おれの枕をバンバンするな。ホコリが飛ぶだろ。ユウの焼きそばもう出来るぞ」「湯切りしてきて♡」「……たく。ハイハイ」──── ひと休憩入れたので切り替えて、Bグループの場決めを行う。東家 カオリ南家 スグル西家 ミサト北家 アンこの並びに決定。「「お願いします!!」」(スグルさんの上家になれたのは良かった)内心カオリはそう思っていた。なぜなら結局はこの中で一番強いのはスグルであり、その下家になってしまったら1枚も甘い牌は鳴かせてもらえないだろうか
20.第七話 知らない方がいいこと ずっと受け身になっていたカオリにやっとチャンスが訪れた。カオリ手牌 切り番三伍六①③④④④23469西 ドラ四 ドラはないけどドラの受け入れは整っている配牌リャンシャンテンだ。第1打は9索という人が多そうな手だが、カオリの選択は――打西 23469のこの5枚が活躍する手順をカオリはこの時イメージしていたのだ。(ふうん。9索じゃないんだあ)マナミが後ろから見ながらそう思う。(私なら二三四四伍六②③④④④234の形を目指すから9索とかは捨てちゃうけどな)と思いながら見ていたがそんなのはカオリだって同じだ、だがカオリは他の可能性も考えていた。ツモ8打①ツモ7打三カオリ手牌 伍六③④④④2346789 いきなりいいのを2つ引いた。だがスルスルと手が進んだのは最初だけでここからカオリの手の成長が止まり、そうこうしてるうちにミサトの切った四萬(ドラ)を竹田アンナがポンする。「うわ。ドラポンかあ」 しかしその鳴きでカオリに届いた牌は最高だった。ツモ赤5!打六 ピンズを引いてもソーズを引いても3面張が残る最強のイーシャンテンまで漕ぎ着けた。しかも一気通貫の目まである。(あの配牌がイッツーとは……9索残しにこんな意味があったなんて…… カオリ凄いな)とマナミは感動していた。 さあピンズを引いてテンパイか? それともイッツー確定の1索引きとか? カオリが引いてきたのは想像以上の牌だった。ツモ赤伍!「リーチ!」「え、気合い入ってるなあ」とミサトが直感する。「これはヤバそうだ」スグルもこのリーチには押せなかった。「私はドラポンしてんだもんオリれないよっ!」とアンが勝負した牌は7索だった。「ロン! リーチ一発赤赤…裏。12000!」 強烈! しかしその時カオリの次のツモがポロリとこぼれ落ちる。コロン「あ!」 そこにはソーズの1。鳳凰様がカオリを待っていた――カオリ手牌赤伍伍④④④234赤56789 7ロン カオリの手は見事だった。ただ、とてもいいアガリではあったがアンに放銃さえされなければ一発でド高め1を引いて親倍満だったのも事実。 鳳凰ツモの8000オールを逃したカオリはせっかく素晴らしい12000をアガったのに落胆してしまった。知らない方がいいこともある。テンションが下がったカ
21.第八話 声「なに、カオリってプロ目指してたの?」とミサトは少し驚いた顔で質問してきた。「うん、実はね。でもちょっと、いま忙しいからその話はあとででいいかな」「それは私も。うん、あとで聞かせてね」 真剣そのものの私達にとって麻雀中ほど忙しい時などなかった。「チー!!」 アンが勢いよく仕掛けた。5巡目に⑦筒を⑤⑥でリャンメンチーだ。ドラは④筒。 これを見た親のスグルはこう考えた。(ふうん。ドラの④筒を待って③⑤のターツを残してたけど、どうやらそこは薄いようだ。あの鳴き方ではドラが2枚以上あるからここを鳴いて固定させ使い切りますと言っているようなものだもんな。諦めて③⑤は捨ててくか)そう思い③⑤を切り出す。すると捨て切った直後……ツモ④!(うわ! 最悪) 思わず声が出そうになるスグル。打④としたらアンに鳴かれるかもしれないが止めたらまだ中盤なのにほとんどオリしか出来ない。親番の大物手イーシャンテンなのでそれもどうなんだと思いスグルは勝負に出た。打④「ポン!」 鳴いたのはミサトだった。(なんだって?!)驚くスグル。「ふふふ」 そこには(やってやった!)という顔をして笑っているアンがいた。そう、アンは読みの名手だ。読めるということは読ませることも可能ということ。 あのリャンメンチーはアンのミスリードを狙う読ませの罠だったのである。「ツモ! 2000.4000は2100.4100!」 ミサトの満貫が炸裂。 アンに嵌められたスグルは親を落とし局面は南3局。ゲームはラス前まで進んでいた。「しかし、毎回思うけどアン先輩の麻雀にはびっくりするよね。あんなリャンメン鳴いてどうすんの? って思ったけど、まさかアガリを目指すことが目的じゃない鳴きだったなんて」「まんまとスグルさん嵌められてたね。あの鳴き方だと④④⑤⑥からか④④④⑤⑥からだと思っちゃうもんね」 ヤチヨとヒロコが後ろから見ながらアンの麻雀に感心していた。ヤチヨの歯には青のりが付いている。いつの間にかのり塩も開けたようだ。「ヤチヨ、歯に青のり付いてるよ」「あ、大丈夫です。今日は金曜日ですからね。最初から長居するつもりだったので歯ブラシは持参してます」「用意がいいね」南3局 アンからの先制リーチ。リーチのみだがこれを一発でツモり裏1で満貫。南4局ドラ六ミサト手牌一
22.第九話 土作り「ふーん。それ3索切りにしないの?」とミサトが聞いてきた。「うん、まあ、何となく……」(声が聞こえたとか言っても誰も信じないだろうし……)「当たりだったんだけどなあ。3索。鋭いね、さすがカオリ!」「!」 さっき聞こえた声が言ってたことは本当だった。不思議なこともあるものだ。「さて決勝をやる前に少し休もう、お腹すいてないか? さっきカップ麺食べなかった子はお腹すいてきたら言えよ? お湯作るから」「はーい! おなかすきました!」とヤチヨが手を挙げる。「私も!」マナミもさっきはココア飲んでただけなのでお腹を空かせていた。 2人ともカレー味を狙っているがカレー味は1つしかない。「こういうのは先輩に譲るものよ?」とマナミが未だかつてないほどの圧をかけてきたがヤチヨもこれだけは従えなかった。「私がこれは自分用に選んだんです。部長にだって譲れません!」「仕方ないわね…… 勝負よ!」「サイコロを2個振って出た目勝負…… ですね」 麻雀部は何かあると決定するための勝負にサイコロを振っていた。2個振るのは同点になりにくくするためである。「私から振ります」 ヤチヨから行ったコンコロコン5と6の11「勝った! これは勝った!! カレー味は私のだ!!」 さすがに11では勝ち確定みたいなものだ。「いや、まだわかんないし! 12出せばいいんでしょ!」とマナミは諦めずにサイコロを持つ。ヒュンコンコロコンコン 勢いよくサイコロが回転する。なかなか止まらない。コロン ひとつは6「おっ! 6出た! あともう一度6出ろ6出ろ6出ろ!」コロン 4 6と4の10「あっぶな!」「惜しかったーーー!」 負けたマナミは残り物の塩味になった。「塩って気分じゃないのよねー」「まあまあ、塩だって美味しいですよ」「じゃあ交換してよ」「それはしませんけど」 お湯が出来たので2人はカップ麺を作り始めた。 3分経過「塩うっま!」 結局マナミは塩で充分満足していた。◆◇◆◇ 決勝戦が始まる。 トーナメント勝ち上がり選手はAグループからは部長の財前マナミと1年生の三尾谷ヒロコ。Bグループからは顧問の佐藤スグルと財前カオリ。「点数は持ち越しなしでやります。優勝者は第一回優勝として名前を書いて壁に貼ります」「ちょっと待て
23.第十話 woman「リーチ」 東2局にマナミからのまさかのダブリーが入る「うそでしょー!」「早すぎるぅ」 リーチ宣言牌は⑧筒。場には親のヒロコが捨てた中と⑧筒しか情報がないままカオリの切り番になった。安全牌は当然ない。カオリ手牌 切り番三伍八①③④⑦137東北白発 ドラ北(こんな手からじゃ勝負になるわけもない。降り切らなければ。しかし、どうやって?) とりあえず白でも切ろうかと手を伸ばしたその時。《⑦筒を切りなさい》 またあの声が聞こえる。(⑦筒? なんでまた)と思いながらもカオリは⑦筒を切る。通った。 その後はスグルやヒロコが色々通してくれたのでカオリは降り切り流局寸前でスグルがマナミからタンヤオイーペーを出アガリ。カオリは失点0でやり過ごすという今の状況から考えたらベストと言える結果の1局になった。(あの声はなんなんだろう。気になるなあ…… でも、味方みたいだしまあ、いいか。今は、集中だ) 幻聴だろうとファンタジーだろうと超能力だろうとどうでも良かった。いま、目の前で起きている真剣勝負。それから目を逸らす余裕はカオリにはないし、勝負以外のことなど、どんなに不思議なことであれ、あまり興味がなかった。 (さっきのカオリ先輩の⑦筒切り。なんでだろうね? ヤチヨはわかる?)とアンがヒソヒソとヤチヨに話しかける。(わかんないです。私なら字牌とか①筒あたり切りそうですけど)(だよねえ、私もそう。独特だったよね) アンとヤチヨはカオリの麻雀に興味を持ちそれからじっと張り付いて見ることにした。(なんか見てるな…… ⑦筒切りの理由とか聞かれたらなんて答えよう)カオリはふとそう思ったが余計なことを考えていたら急にスグルのダマに放銃してしまった。「3200」 一手替わりで四暗刻になる三暗刻のみのカンチャン待ちに刺さる。(しまった。全然気付いてなかった。声はいつでも聞こえてくるわけじゃあないのね……) むしろ四暗刻になる前に放銃しておいて助かったかもという風に良い方向に捉えて気を取り直す。東4局 カオリの親番が始まる。コンコロコロ…… サイの目は1と4の5「自5っと」 カオリは自分の山を少しだけ覚えてた。わざわざ覚えようと思ってたわけじゃないが白を3枚適当に積んだのは何となく記憶にあった。すると、ドラが白。しかし、
24.ここまでのあらすじ 麻雀部は人数が増えて8人になり部内最強を決める麻雀大会を開くことにした。すると主人公カオリに助言する声があった。声の主は自分を【woman】というが……? 謎の声【woman】とは一体? そして、麻雀部最強は誰になるのか?!【登場人物紹介】財前香織ざいぜんかおり通称カオリ主人公。読書家でクールな雰囲気とは裏腹に内面は熱く燃える。柔軟な思考を持ち不思議なことにも動じない器の大きな少女。財前真実ざいぜんまなみ通称マナミ主人公の義理の姉。麻雀部部長。攻撃主体の麻雀をする感覚派。佐藤優さとうゆう通称ユウ兄の影響で麻雀にハマった。名前の通りのとっても優しい女の子。お兄ちゃんの事が大好き。竹田杏奈たけだあんな通称アンテーブルゲーム研究部に所属している香織の学校の後輩。ふとした偶然が重なり麻雀をすることになる。佐藤卓さとうすぐる通称スグル佐藤優の兄。『ひよこ』という場末雀荘のメンバーをしている。人手不足からシフトはいつもランダム。自分の部屋は麻雀部に乗っ取られているがそれ程気にはしていない。井川美沙都いがわみさと通称ミサト麻雀部いちのスタミナを誇る守備派雀士。怠けることを嫌い、ストイックに生きる。中條八千代なかじょうやちよ通称ヤチヨテーブルゲーム研究部所属の穏やかな少女理解力が高く定石を打つならコレという判断を間違えない。三尾谷寛子みおたにひろこ通称ヒロコテーブルゲーム研究部所属の戦略家ゲームの本質を見抜く力に長けていて作戦勝ちを狙う軍師。その3第一話 オーラ 東4局一本場はwomanの声は無かった。だがカオリはそんなことは別に気にしてなかった。堅実に丁寧にピンフを作ってリーチした。カオリ手牌一二三六七八③④⑥⑥123 勝負手の入っていたスグルが放銃して2900は3200。さっきのダマ三暗刻の時払った3200を返してもらった。(よーし、悪くない。1番格上のスグルさんからの直撃なら3200だって充分だ) 続く二本場はwomanの気配はしたが何も言われなかった。すんなりリーチしてツモ。カオリ手牌二三四四赤伍六①①①③567 ツモ②「ツモ。2000は2200オール」《うん、その調子!》(あ、やっぱりいたんだ)《なにも言う事無い時まで話しかけたりはしませ
72.第十一話 贅沢な生き方「はー、食べた食べた。ごちそうさまでした」 紙ナプキンで口元の汚れを拭うとメグミは先程の話の続きをし始めた。「でえ、井川さんの何が凄かったかって大三元の局ね」「あれは凄かったですよね!」とマナミも言う。「うん、結果的にアガれたし。凄いのだけど。何が凄かったかはその結果の部分じゃないの」「っていうと?」「あの時、私は井川さんの対面の手を見てたわ。対面にいたのは私の同期だからちょっとだけ興味があったの。そんなに仲良しでもないんだけどね」「そう言えば対面を見てましたね」「うん、でもね。途中で遠くから見てるマナミの瞳孔が開いたの。動きも止まるし。カオリちゃんなんか『ぽかん』と口開いてるしで。(何かが起きてる)って思って。自販機に飲み物買いに行くふりして移動してみたわ。対局者の周囲をグルグルするのはマナー違反だからね、さりげなーく移動したのよ。そしたら大三元じゃないの」「ど、瞳孔??」かなり離れて見ていたつもりだったがメグミはどんな視力をしているのだ。いや、それよりも。なぜ外野の反応に気付いたりできるのか。プロはこわいな。と思うマナミたちだった。「少なくとも、私の同期はそれで気付いて止めたっぽいわね。本来なら一萬が止まる手ではなかったから」「そんな、ごめんねえミサトぉ」「いいわよ、おかげで大三元になったし、結果オーライよ」「凄いのは井川さんのその雰囲気。全然分からなかった。少しも役満の空気にはなってなかった。たいした手じゃないよ、みたいな顔で。あんな演技はなかなか難しいわ」「あの時は自分は5200を張ってると思い込ませていたので」「どういうこと?」「あの白仕掛けはマックス16000ミニマム5200のつもりで鳴き始めた手でした。なので5200だと思い込んで打つことで役満を悟らせない空気作りを心掛け
71.第十話 レートはタバスコ「はい、チキンステーキとラージライスです。器はお熱いのでお気を付けください」「はい」とカオリ。「スパゲッティナポリタンとほうれん草のソテーです」「はーい両方私です」と奥から手を伸ばしてミサトが受け取る。「いただきまあす」「ちょっと私タバスコとってくるね」とミサトが出ようとするので「いいよ私が持ってくる。私もちょうど飲み物おかわりしたかったし」とカオリが気を効かせる。「ありがとう、じゃあお願い」「タバスコと言えばさ。レートはタバスコって話知ってる?」とマナミが言ってきた「なにそれ、知らない」「ネットで麻雀戦術論を公開してる『ライジン』って人の記事が面白くて。その人の日記に麻雀のレートについて書いた記事があったんだけど。それがすごくいいのよ」 そう言うとマナミはそのSNSを開いて見せてくれた。◆◇◆◇××年××月××日××時××分投稿者:ライジン【麻雀のレートについて】 ごきげんよう、ライジンです。 今回は麻雀のレートとギャンブルについて語って行こうと思います。 結論から申し上げて、麻雀はギャンブルの部類に属さない。素晴らしい『競技』です。なぜなら、麻雀はあまりにもルールに縛られているゲームであるから。 まず、リーチについてですけど。 麻雀がギャンブルだと言うのなら勝負手なので10倍賭け
70.第九話 3面張固定のリスク「「カンパーイ!」」カチン! 学生3人はドリンクバーのコーラとメロンソーダで。メグミは中生で乾杯した。 ゴクッゴクッゴクッ! と生ビールを飲むメグミはどこかオッさんぽくもあるが、大人の女性の色っぽさもあり魅力的に見えた。「……っはーー! ウマい!」 メグミはテーブルに4分の1の大きさに折って敷いたおしぼりの上に中ジョッキをゴン! と置くと今日の事を話し始めた。「まず、マナミは最強。まじでつよい。アンタには才能を感じる」「えへへ~。そうですよねえ」となぜかカオリの方が喜ぶ。「あんたら2人はさっさと上位リーグに上がって麻雀界を盛り上げちゃいなさい。今の調子なら出来るでしょ」「がんばります」「んでぇ。井川さん」「はい!」「最終戦だけ見てたんだけど、素晴らしいわね。特筆すべき点はふたつあったわ」「ど、どこでしょう」「ちょっと紙とペンない?」「あります」とカオリがスッと差し出す。カオリは何かあればすぐメモ書きして自分のノートに書き込む習慣があるので筆記用具を持っていない時などない。ポケットの中には小さなリングノートとボールペン。それと小さな巾着袋。袋の中には赤伍萬が入っている。裸で持ち歩いていると、もし仮に対局中に病で倒れるなど不測の事態で気を失った場合にポケットを探った人がこれを見つけたらイカサマを疑うかもしれない。なので巾着に入れて持ち歩くことにしたのだ。「ありがと」と受け取るとメグミはサラサラと牌姿を書いた。三三四③④⑤⑥⑦⑦56799 ドラ5「この形」「あっ、私の五回戦東2局!」「そ
69.第八話 伝説の姉妹「はい、全卓終了しましたので新人は牌掃除をして他の選手は速やかに退場して下さい。お疲れ様でした!」 全ての卓が対局を終えたら新人は牌をおしぼりと乾いたタオルで磨いてキレイにしてから会場を出る決まりだ。仕事でいつもやっているカオリとマナミは素早いがミサトは初めての事なのでカオリに教えてもらいながらやるが、中々うまく牌が持ち上がらない。それもそのはず、全自動麻雀卓は牌の中に鉄板が入っていてそれを卓が磁石で持ち上げて積んでいく仕組みだが、プロリーグは対局前に牌チェックという作業を行い少しでも亀裂や落ちない汚れ、欠けてる角などを発見したら即交換するので牌の中にある鉄板の帯びた磁力がマチマチ。持ち上げようとしてもカチッと揃いにくいのだ。「これは、ミサトじゃムリかもね。私達でやるからミサトはその辺でメグミさんと待ってて」「わかった」 カオリは手先が器用なので扱いにくいリーグ戦の牌もチャチャッとキレイにして2卓分清掃した。「はやーい」とマナミも驚く。「じゃあ行きましょうか」と成田メグミが先導する。新人3人にゴハンを奢ってくれるらしい。 3人は初めてのリーグ戦を終えて自分はついにプロ雀士になったんだ。という実感をしていた。それは、カオリにはひとつの夢だった。(夢って叶うんだなあ)そう思っていたらさっき牌掃除をした時から現れていたwomanが《何を言ってるんですか》と思考に入り込んできた。《まだこれからですよ。でも、今日の対局。いい麻雀してましたね。私は嬉しいです。カオリはどんどん強くなる》(コーチがいいからね)《そうですよ、神様を味方につけた姉妹なんてきっとあなた達だけですよ。伝説の姉妹になりなさい。きっとその願いは叶いますから》「カオリちゃんさっきから無言だけどどうしたの?」「へっ? あ、ああ。なんでしたっけ」「だからー、和食と洋食どっちにするかの話でしょ」
68.第七話 試される時 財前姉妹が暫定1位2位という衝撃的なデビューを飾っている時、井川ミサトだけが絶不調だった。なんと、ミサトはラスラスラスと3連ラスを引いて身も心も打ちのめされていたのだ。 しかし、そんな時だからこそプレイヤーの真価が問われる。この今日の最終戦でどんな麻雀が打てるか。 3回ラスになろうとリーグ戦は始まったばかり、5節あるうちの1節目なので20回戦のうちのほんの3回に過ぎない。ここは気持ちを切り替えて行くのが正解だが、初めてのリーグ戦でラスしか取れない状態から復活できるか。不調を抜け出せるか。マイナスイメージを持たないで戦えるのか。まだ学生のミサトにそんな精神力があるのか。 いま、ミサトの器が試される。 ひとつだけ幸運だったことがあるとすればミサトの卓も5人打ちなので三回戦終了後に一旦抜け番だということ。この抜け番でどこまで気力を持ち直せるか。(くそぅ、大好きな麻雀が…… いま、こんなにつらい。分かってる。楽しいばかりじゃないって。いま、私は、試されている……!)(まさか、あのミサトが3ラス食らうなんてね)(ミサトならきっと持ち直すわよ) と、マナミとカオリは先に対局を終えて遠くから観戦していた。(がんばれ!)(がんばれミサト!) ミサトの卓の五回戦。まだミサトにチャンスは来ていなかった。苦戦が続くミサト。ミサト手牌 切り番一一四六八⑤⑧⑨455白白中 ドラ⑤ ミサトはここから⑧を切った。ピンズはドラを活用した面子をひとつ持てばいい。それより役牌の重なりで打点を作る手順だ。すると中が重なる。打⑨(中切らなくて良かったわね)(これでもだいぶ
67.第六話 メンタルコントロール「ロン」二三四②②②③④22344 3ロン「8000」 カオリのリーグ戦はダマ満貫を放銃する所から始まった。(あちゃー。でもこんなの分かんないし。始まりのマンガン失点くらいはなんて事ないわ。こういう持ち点で始まるゲームだと思えば) カオリはマイナスになってもそれが最初の設定点数だと思い込むことで気持ちを落ち着かせるという術を持っていた。 つまり、今回の場合はスタートから17000点持ちのゲームだと思い込むということ。そこからどうやってトップをとるか。元からそういうルールの遊びだと思えば今の放銃もなんら痛くない。 もちろんそれにより勝利条件が軽くなるなんてことはないのだが、気持ちに焦りがなくなれば自滅する可能性も減るというものだ。 勝負事でよくある敗因の最たるものは『自滅』であり、それを抑える効果があるとすればこのメンタルコントロールを狙った思考法は重要な考え方のひとつであると言えるだろう。 このような、気持ちを軽くする方法は全て佐藤スグルに教えてもらった。現役選手はやはり戦術本では学べない一味違うことを教えてくれる。 その後、カオリは見事に冷静な仕掛けや落ち着き払った降りを見せる。ラス目とは思えないほどのクールさで正確無比な麻雀をした。 落ち着いた状態で迎えた南場の親番。トップ目にドラポンを仕掛けられるも、ここだけはグイグイ押してアガリに行く。そして――「ツモ」カオリ手牌①①①②②⑥⑥⑥南南(東東東) 南ツモ「8000オール」 役役ホンイツトイトイ三暗刻炸裂! 終始落ち着いて打てたカオリはまるで当然
66.第伍話 本気だけを出す場所 マナミはよく知った顔と同卓だった。マナミ達のアルバイトしている雀荘『ひよこ』で平日の昼間だけ働いている成田メグミプロが同卓だったのである。「マナミちゃん。シャキッとした服装も似合うわねえ」「ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」「お手柔らかにねえ。まあ、私は本気出すけど」「私も本気でやるしか能がないので。本気でやらせてもらいます」 すると成田メグミはハハハ! と笑った。屈託ない笑顔に眼光だけ鋭く光らせて。「いいわよ。お手柔らかになんて、そんなことするわけないし。プロリーグは本気だけを出す場所だものね」と言う。なんてことない会話ではあったが、この時の成田の雰囲気にマナミはゾッとした。(本気だ) いつもニコニコしてお客さんに『メグちゃん』と愛称で呼ばれて愛されている成田の勝負師の顔を初めて見た。(今更だけど、やっぱりメグミさんはプロなんだ。こんな顔を見せるなんて) 気圧されそうになる心を奮い立たせてマナミは勝利宣言をかますことにした。やる事が大胆なのはマナミの良さである。(ヨシッ!)「私はデビュー戦を必ず勝利で飾ります。今日の私と当たったのは不運でしたね」「ふっ、生意気ね。プロの厳しさを知ることになる最悪なデビュー戦にしてあげるわよ」「勝負!」──────「まいった」 負けたのは成田の方だった。「マナミちゃん。いや、財前真実プロ。あなたはこんな階級にいる女じゃないようね。さっさと昇級して上位リーガーになりなさい」「メグミさんも強かったです。何度も危ない場面があった。今日の私はちょっと勘が良かった。それだけです」「それが、重要なんじゃない。あーあ、私
65.第四話 潰し合うつもりで「いーい? 私たち今日は当たらないけど、今後もし当たったらリーチ後の見逃しは絶対にしないこと。どんなに戦略性があってもよ。どうしても見逃したい局面は役を作ってダマにするの。分かった?」「わかりました~」「ミサトはマジメねえ」 ミサトの提案で麻雀部の3人は見逃しをかけない。助け合わない。お互いを潰し合うつもりでやる。そんなルールを設けることになった。 かつて、師弟関係にある雀士が師匠から出た当たり牌を見逃して麻雀界から熱気が急激になくなった八百長だと言われる事件があった。それが戦略性があろうと無かろうと、そこは問題ではないのだ。胡散臭いと思われた時点で終わりなのである。 この時のミサトの提案があったから、のちにどんなに3人が仲良くしていてもこの3人は友達同士でズルをしたりは絶対してないという信頼を得ることが出来るようになる。 他人からどう見えるか、どんな疑いがかかるか、それらを予測するのも読みの一部であると言える。その程度も分からずに師匠からの当たり牌を見逃しなどしてると大騒ぎになるという例も歴史が証明している。麻雀ファンを失望させない打ち手であること。それもプロ雀士の条件だとミサトは思っているので、外見は美しく、言葉はきれいに、姿勢は正しく、麻雀はテンポよく正確に、もちろん、ズルなんか絶対しない! を心掛けて新世代のニューヒーローとなることを目指していた。そこには、好敵手の財前カオリや財前マナミのほか女流リーグ覇者の白山シオリという強烈な敵もいたがミサトは総合的に見て自分だって負けてないと思っていた。あとは麻雀で勝つだけ。と。 対局開始まであと3分。ミサトは水を飲んで気持ちを落ち着かせた。緊張してるのを感じていたのでトイレで鏡を見て(強張るな。リラックス、リラックス)と暗示した。パンッ!! リラックスの暗示を自分にかけるかのようにミサトは手を叩いた。(私は大丈夫。私は強い)
64.第三話 プロリーグ前日《カオリ、どうしましょう》(なにが?) 赤伍萬の付喪神【woman】は財前カオリに憑いて今ネット麻雀をやっていた。親番中でドラは北woman手牌 切り番二三赤伍六七八九⑦⑧⑨23北北《私、自分を捨てることになりそうです》(何で? 八九を落とせばいいじゃん!)《それだとチャンタやイッツーがなくなって鳴きが出来ないから…… 無しです》(なら23落とせば?)《ダメです。それだと四しか安心してチー出来ないので、受けもあまり良くないですし》(じゃあどうすんの?)《この手の正着打は六萬切りでしょうね》(六萬か……)《これが唯一のムダなし手順です。チャンタ狙いなので一と1どちらからでも鳴いてテンパイに不安はない受けが残りますし安め引きでもリーチで親満は確定します。それに……》(分かった、六ね) 切り番にのんびり考える人はいない、womanの話をろくに聞きもせず打六とするカオリ。《あっ、あっ、私が。私が出ていっちゃいますうう》(うるさいなあ、六切りってwomanが言ったんじゃない。違うの?)《違わないです。他の手順には必ず浮き牌が出ますが六切りだけは浮き牌ゼロの構えです。ここを切る時だけ全体で打ててます。他の手順に存在しない強味。それは次切る牌が決定していない手順であるということ。これこそが最も強い攻めの一打であると言えます》次巡ツモ四(赤伍切らずに済んだ! ある種の理想的テンパイね!)《良かった~》『リーチ』数巡後……